女子的土木散策レポート

Report

2021.03.23

城崎温泉 無電柱化事業の現場に潜入!

兵庫県豊岡市にある城崎。
720年に温泉が湧き出してから1300年以上の歴史を持つ日本有数の温泉街でもあります。

泉質も良く、文化財も数多く残されており、年間を通して多くの観光客が訪れるこのまちでは、現在、電柱を取り除く「無電柱化事業」が行われています。

今回はそんな無電柱化事業が行われている城崎温泉街を取材してきました。

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無電柱化にはいくつかの手法があり、城崎では、電線共同溝方式での無電柱化が進められています。
電線共同溝方式は、電線をいれる管と桝を道路の下に埋める無電柱化の手法です。
その他にも、無電柱化したい道路の裏通りの電柱・電線から引き込みを行う裏配線方式や、軒先や軒下に電線を設置する軒下配線方式があります。

それぞれの場所に合った無電柱化の工事方法があるんですね。

一般に、道路には電柱・電線があり、そこから電気やインターネット、電話、ケーブルテレビなどの通信線を個々の家や施設に引き込んでいます。
しかし、最近では良好な景観の形成のためや、災害が起きた時に電柱が倒れたり、電線に何かが引っかかった際に停電や事故の可能性が上がったりすることから、無電柱化が進んでいます。

ちなみに海外でも無電柱化は進んでいて、ロンドンやパリ・香港などの都市は無電柱化率が100%だそう。

今回の城崎における事業の目的は主に3つ。
①景観の改善
城崎は、景観が重要な観光資源となる観光地です。電柱がなくなることで、より良い景観を楽しめるようになります。

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ちなみにこちらがまだ工事を行なっていない道。

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こちらは無電柱化が行われた道。
比較するとその違いにびっくり!
電柱があるのとないのでは、すっきり感が全く違ってきますね。

景観を売りにしている観光地では、電柱がない方がそのまちの雰囲気がより伝わる感じがします。

②防災力の向上
火災があった際に、電線が張り巡らされた場所では、高所作業車などが入りにくく、消火や救助活動に遅れが出る可能性があります。
歴史的建造物も数多くあるので、他に燃え移る前になるべく早く消火しなくてはなりません。
また、日本は災害大国でもあるため、無電柱化した方が被害も少なく安全ですね。

③そぞろ歩きの安全性確保
城崎では、そぞろ歩きを推奨しています。
そぞろ歩きとは、7つの外湯めぐりや食べ歩きなど、浴衣と下駄でぶらぶらまち歩きを楽しんでもらうこと。

電柱が道路の脇にあると、電柱を避けて出てくる人や車が見えにくく、通行の妨げになったり、事故につながることも。
電柱がなくなり、道が広くなることで、ベビーカーや車椅子でも通りやすくなりますね。

この3つの目的を達成するため、城崎では平成13年から事業が進められています。

今回の無電柱化事業の工程はこちら。

①無電柱化する場所を決め、計画を立てる。
城崎は、温泉や旅館、お店などが数多くあるため、時期や範囲を地域の方と話し合って決めていきます。
本来であれば一定期間内に一気に工事を進めたいところですが、温泉やお店などの営業の妨げになってしまうため、掘って、埋め戻しまで1日で完了する距離で少しずつ進めていきます。

図1 (2)

これは工事の様子なのですが、工事を開始すると作業車などもあり、道を塞いでしまいますね。

ちなみに写真左にある、穴の開いた巨大な箱のようなものは電線共同溝の桝。
地下で電線やインターネットケーブルなどの配線作業をするためのものなんです。
丸い穴は、電線などを通すために開いています。

 

②アスファルトを剥がし、穴を掘る。
一度舗装されたアスファルトを剥がすのは大変な作業。アスファルトを剥がした後は、桝や管を埋められるぐらいの大きさの穴を掘ります。

ここで注意したいのは地面の中にある、温泉やガス、水道、信号などの管。
道路の下にはたくさんの既存インフラ設備が通っているので、事前に調査した上で設計を進めます。
掘る前にも各管理者に立ち合ってもらい位置を確認した上で、慎重に穴を掘る必要があります。

③桝と管を地下に埋設する。

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巨大な桝が設置されています。

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大人が2〜3人入れる大きさですね。

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オレンジ色が眩しい管。
工事中も、地中でも一眼でわかるカラーリングです。

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管をつなげていきます。

図2

桝と管がつながりました。
この後、配線を通す作業をするのは電力会社やインターネット等の会社が行います。

④埋め戻す
桝と管を地下に設置したら、埋め戻します。

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埋設後も作業ができるように、桝の上にあった穴はこのマンホールとつながっています。

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ちなみに、城崎のまちにはオリジナルデザインのマンホールがあります。
これは、太鼓橋と桜が描かれています。春の城崎も桜が綺麗でおすすめですよ。

⑤完了
これで電線共同溝工事が終了。
無電柱化された道には、変圧器(トランス)を収納するための地上機器が置かれます。
電力会社が作るもので、地域によってはカバーのデザインが違うので見比べると面白いです。

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城崎バージョンは、まるで石造りのような見た目。
よく見てみると、何やら文章が書かれています。
これは、城崎文学まつりで開催された俳句・短歌コンクールの入選作。

城崎は、平安時代から多くの歌人に詠まれ続けてきました。
文豪たちが執筆した言葉が彫られた文学碑もまち中に点在しています。
現在も湊かなえさんや、万城目学さんらが城崎を舞台にした書き下ろしの小説が発売されるなど、数々の文豪が訪れている場所としても人気のスポットとなっています。

最後に城崎のまちをそぞろ歩きしてみました。

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観光客が多く訪れており、時折カランコロンと下駄の音が聞こえてきて風情があります。

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これは橋の上からみた川沿いの風景。
左側が無電柱化された道、右側が電柱が残された道。

実際に歩いてみると、意外と車通りが多く、その度に避けながら歩くのですが、電柱があるのとないのとでは、歩きやすさが全く違いました。
ない方の道は視界を遮るものもないので、安心して歩くことができます。

また、道幅もそんなに広くないため、災害が起こると電柱が倒れ、周囲の建物などに被害が及ぶ危険性も感じました。

 

個人的には電柱のある風景も好きなのですが、城崎のように温泉まち独特の雰囲気が楽しめるまちでは、ない方が良さがダイレクトに伝わりますね。

今後、城崎ではさらに無電柱化が進んでいく予定となっています。

正直、今まで、電柱は当たり前にある存在だったので、特に気に留めることはなかったのですが、取材を通して、あることで起きる災害などでのデメリットや、景観への影響などを考える良いきっかけとなりました。

いつかはメインの通りの電柱がなくなる城崎。

変わりゆくまちの景観を残しておきたいと思い、あえて電柱のある風景を撮影して、このまちを後にしました。

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追記。

城崎温泉は泉質もよく、日々の疲れも一気に吹き飛びお肌もツルツル。
日本海で獲れる海鮮もとても美味しいので、城崎のまちを思う存分味わいながら、無電柱化されたまち並にも注目してもらえると嬉しいです。