急傾斜地崩壊対策事業に潜入!
今回訪れたのは兵庫県神戸市北区鈴蘭台。
大歳馬場地区の急傾斜地崩壊対策事業に潜入していきました!
みなさんは急傾斜地崩壊対策事業をご存知ですか?
これは本来であれば斜面の持ち主が行うべき工事を多くの人命に影響する斜面に限って、行政が行うことができる事業のこと。
崖崩れが起きやすくなる斜面30度以上であること、斜面の高さが5メートル以上であること、そして斜面の崩壊によって危害の恐れのある人家が5戸以上あること、この全てを満たすことが条件となっています。(人家が5戸未満でも病院や学校などに危害のおそれのある場所も対象)
ちなみに一般の事業とは違い工事に関わる用地は買収せずに所有者と使用賃貸契約を締結し、県が無償で使用します。
工事完了後の対策施設は県が管理を行い、排水路の掃除や草刈りなどの日常の管理については工事前と同様に地域の方が行いながら維持していくそうです。
今回訪れた大歳馬場地区では平成30年に起きた豪雨の影響で崖が崩壊したこともあり、現在この事業を使って工事を行っています。
毎回お馴染みの兵庫県のヘルメットを装着して現場へ向かいます。
いつも貸していただくこのヘルメット。
実は事務所によってラインの色が違うので毎回どんな色なのかな?と楽しみの一つになっています。
今回はかっこいいブラック。
ではさっそく急傾斜地崩壊対策事業の工程を見ていきましょう。
①まずは対象となる地域住人が県に申請。
②事業が採択されると測量を行い工事範囲を決定。
今回は赤い線の部分が範囲
③樹木伐採
人家に工事の影響がでないように2〜3メートル離れたところまで伐採していきます。
これは伐採後の木。
崖の上にあるのですが、なんと下の写真ぐらいの高さのある木だったそうです。
この木が倒れてくると思うとぞっとしますね。
そのまま切ってしまうと人家に影響が出てしまうため、ワイヤーロープで木を括り付けて落とさないよう、最新の注意を払いながら伐採していきます。
下の写真のように人家にとても近い木もあるため、その場に合わせて伐採方法を変える必要があるんですね。
④掘削工事
重機などが通るため、地面を傷つけないように鉄板を敷いて保護しながら作業を行います。
他にもフラッグコーンを設置したり「危険」と書いてある旗を付けたり様々な安全対策がみられます。
人家と工事現場の間に柵を作っていますね。
重機がぎりぎり通れる幅なので慎重に作業をしていきます。
次は上から現場を見てみましょう。
上から見ると元々あった壁を少しずつ壊しながら進んでいくのがよくわかります。
それにしてもこの幅で作業するのは大変そう。と思っていると心強い味方が!
レイアウトナビゲーターという機械。
なんとこの機械からショベルカー上部にある受信機にデータを飛ばすことで手元にあるタブレットにミリ単位で掘削が可能な位置情報が表示されるんです。
時々カチカチと音がなり、データを送っているのがわかります。
現在、全国ではこのようなICT施工が取り入れられています。
ICT施工とは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略である「ICT」と「土木施工」を組み合わせた言葉。
今までは丁張りという木杭や水糸を用いた位置出し作業を必要としていた工事も、ICTを活用することで経験の浅い若い方でもタブレットなどの機械を使って作業をすることができます。
ショベルカーの運転席に取り付けられたタブレットの画面を見せていただきました。
ショベルの先端部分と掘削部分の距離がミリ単位で表示されています。
この機械も様々で、中には間違った場所を掘ろうとすると自動でストップがかかるものもあるそうです。
ちなみに掘削中で最も大変なのが雨。
工期が令和5〜6年にかけてあるので梅雨になると雨水が斜面に染み込み崩れてしまう可能性が出てきます。
危険の無いようにその都度対処しながら工事を進めていくため、日々自然との戦いですね。
狭い土地のため、小さいショベルカーを使って作業をしています。
ショベルカーの横に置かれているのは、左側がコンクリートガラ、右側が石。
綺麗に分けられています。
後ろにあるトラックを見ると、現場で掘り起こされたコンクリートガラが置かれていました。
実はこれはリサイクル用に選別されていたんです。
石は持ち主の方が再利用される予定で、このコンクリートガラは路盤材などに生まれ変わるんだそう。
④その場所の斜面の角度や地質に合わせて待ち受け擁壁工や法面工など一番適している工法で工事を行っていきます。
こちらは重力式擁壁。
コンクリートの重さによって背面の土を支えます。
上部の柵は上からの落下物や崩れた土砂を防ぐ役割。
循環型社会の実現を目指す日本では、このようにリサイクルにも力を入れているんですね。
この所々に空いている小さな丸い穴は水抜き穴。
山の水がここを通って排水されます。
こちらはもたれ式擁壁。
地山にもたれた状態でコンクリートの自重によって背面の土を支えます。
一見表面が同じように見えるのですが、裏面の構造が全く違います。
その場所に合わせて工法を変えているんですね。
中心の黒いラインが重力式擁壁ともたれ式擁壁の境目。
次に向かった場所は待ち受け擁壁工と法面工のどちらも行われる現場。
上には完成した法面工を見ることができます。
近づいてみましょう。
これは植生基材吹付工という工法。
枠内には種子が入った土が入っているのですが、これは下水汚泥などを原料に発酵肥料に作り替えたものを使っています。
ここでもリサイクルの技術が使われているんですね。
法面を見ていると横に囲われている場所がありました。
こちらは祠。
工事中、影響が無いよう厳重に囲われている姿を見ると、いろんな配慮や気配りをしながら作業を進めているんだなということが伝わってきます。
大歳馬場地区の急傾斜地崩壊対策事業は令和6年の9月に完成予定。
今も日々工事が行われています。
近年は豪雨や地震など様々な災害により崖崩れが生じている地域が多くあります。
崖崩れは突然起きるため、このように事前に対処する制度があることも知っておくといいですね。
今回のような工事は普段何気なく目に触れることも多いと思いますその時に自分の住んでいる地域はどのような場所だろう?と考えることが防災意識を高める第一歩につながればいいなと感じました。
ご案内してくださったみなさま、ありがとうございました。